北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

顔が「パレット」になる状態

ミケランジェロは、システィーナ礼拝堂の天井画に取り組み、終わりに近づいた頃、自らの姿を「叙情詩」として描いている。(ソネットは、4行+4行+3行+3行からなる4連14行詩であるが、さらに+3行+3行が加えられている。)

 

この辛い仕事で甲状腺が腫れてしまったが、
僕は、水をぶっかけられたロンバルディアの猫みたいなのだ、
まあ、別にどこの猫でもいいのだが、
顎(あご)がお腹を吊(つ)ってるみたいになってしまった。

髭は空を仰ぎ、記憶箱はまるで
駱駝(らくだ)の瘤(こぶ)、身体は竪琴のようにひん曲がっている、
絵筆が顔の真上をせわしなく動くので、
顔は絵具の雫(しずく)を浴びた色彩豊かな床になっている。

腰はお腹のなかにのめりこんで
お尻はちょうどころあいの天秤(はかり)の錘(おもり)となって、
眼を閉じれば、宛(あて)もなく手足が動いて、

身体の前側の皮膚はぴんと伸びきり、
背中のほうは皺(しわ)が寄せ集まり
アッシリアの弓のように反(そ)りくり返っている。

 だから、なんとも変なのだ、
ぼくの頭から出てくるものは、
つぶれた矢筒から放つ矢なのだ。

 ぼくの完成しない絵を、
守ってくれ、ジョヴァンニよ、それにぼくの名誉もだ。
ここはぼくの場所じゃない、ぼくは絵描きじゃないからだ。

<出典>木下長宏「ミケランジェロ」(中公新書)

 

ミケランジェロは、やはり画家というよりは、彫刻家である。彼自身、そのことをよく自覚していたもよう。天井画の人物像は、一体一体が、頭の中で思い描いた「彫像を」描写ような立体感だもんなあ…。